150頁弱のコンパクトな本ですが、寓話や対話を交えながら、分かり易く、かつ、深い議論が展開されます。冒頭はイソップ物語の「酸っぱい葡萄」の話。高い枝にぶら下がっている葡萄を取ろうとして何度かTryするものの、葡萄を取れなかったキツネは、「あの葡萄は酸っぱいに違いない」と言ってその場を去ります。これは、feasibility(≒can)とdesirability(≒want)を混同している典型例として紹介されます。そして、Rationalityとはこの2つを区別して扱うことであると指摘します。もっとも、不確実性のある状況下では、この2つの区別だけでは不十分なこと、また、現実的には両者の区別はかなり曖昧であるということも指摘されます。
本書では、Rational Choiceに関するいくつかのモデルに対する洞察がなされます。Gilboa教授は、モデルの有用性だけでなく限界にも言及します。そして、こうしたモデルを理論として考えるのではなく、paradigm(a system of thought)として捉えるべきであると主張します。paradigmは我々に、世の中の様々な事象を考察する思考方法を提供してくれます。
序文には、「高校卒業程度の学力があれば十分読める」と書かれており、数学はほとんど使っていません。しかし、理論的にはかなり高水準です。特にⅢ章(Group Choices)などは、(重要な指摘事項がさらっと書いてあったりしますので)きっちり理解するためにはある程度の前提知識が必要になると思われます。
なお、数学の補足説明や演習問題(及び解答)がWeb上のAppendixesという形で用意されているのも有難いです。今はこれを少しづつ読み進めています。
(目次) |
I Optimization |
1 Feasibility and Desirability |
2 Utility Maximization |
3 Constrained Optimization |
II Risk and Uncertainty |
4 Expected Utility |
5 Probability and Statistics |
III Group Choices |
6 Aggregation of Preferences |
7 Games and Equilibria |
8 Free Markets |
IV Rationality and Emotions |
9 Evolutionary View of Emotions |
10 Utility and Well-Being |
Online Appendixes |
A Mathematical Preliminaries |
B Formal Models |
C Exercises |
D Solutions |