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2011年3月26日土曜日

Business Schoolで学ばなかったこと

本日はJay. B. Barney(共著)のWhat I didin't Learn in Business Schoolです。Barney教授と言えば、RBV(Resource Based View)という経営戦略理論で大変有名な方です。まずは、Barney教授が教鞭をとるOhio State University(Fisher College of Business)のExecutive Educationからのビデオクリップです。





今回ご紹介する本はRBVの本というわけではなく、物語を通じた経営戦略の本です。MBA修了後にコンサルティング会社に入社した主人公が、コンサルティングの現場とBusiness Schoolで学んだことのギャップに戸惑いながらも、仕事を通じてコンサルタントの役割やチームワークの重要性といったことを学び、成長していく姿が描かれています。

ちなみに、この本のTitleは"What I didn't learn in Buisness School"であり、"Business School didn't teach・・・"ではありません。すなわち、Business Schoolで学んだこと(学ばなかったこと)については、すべて自己責任であるということです。もっと言えば、Business Schoolでは少なくとも(そのヒントは)提供しているものの、学んだ側がそれを十分生かしきれていないということかもしれません。本の序文には、以下のような戦略立案に関する珠玉の記述があります。
Strategy making is part science, part art, part intuition, part politics, part analysis, part change management, and part just hard work.
物語の主人公は、Business Schoolで沢山行うケース分析(Cracking the Case)と現実の仕事(コンサルティング)とは全く違うことを自覚していきます。現場では、様々な人の思惑、社内の権力構造、企業風土といった要素が複雑に絡み合っています。また、会社の事業や製品等のビジネスの仕組みに関しては、社内の人間の方が圧倒的に知識もありまた経験も豊富です。そうした中で、コンサルタントの果たす役割とは、(健全な懐疑心を持って)様々なバイアスに左右されることなく、客観的に戦略の評価を行うことであると理解します。また、現実のコンサルティングは、会社の将来の姿を形作る支援をするやりがいのある仕事であると感じます。Storyは(かなり脚色はあるものの)とても生き生きと描かれています。この辺りは、Barney教授も、もう一人の著者(Clifford女史)も、実際にコンサルティング経験が豊富なためでしょうか。

本書の想定する読者としては、「コンサルティング業界を希望するBusiness Schoolの卒業生」なのかもしれませんが、実際にコンサルティング経験のある方や経営企画部等で戦略立案に携わる方々にとっても、十分楽しめる内容だと思います。さらに、Business Schoolというと、様々な分析ツールのみを教える場であると「誤解」としている向きにも、是非本書を読んでいただきたいと思います。というのも、(本書でもいくつか指摘されていますが)各種の分析ツールの限界等については、実はBusiness Schoolではしっかりと教えているからです。

MBAに対する様々な批判がある中で、その一因として、教わった側が深い理解には至っていないということもあるかと思います。というのも、(1年とか2年とかの)期間の制約があるため、Business Schoolはどうしても詰め込み型の教育にならざるを得ないからです。また、試験やレポートなどもある以上、ある程度割り切って取り組む必要もあります。その結果、どうしても消化不良気味になったり近視眼的になりがちです。また、MBAを取得した自信の裏返しとして、ともすると慢心が生じる危険性もあります。

その意味で、MBAを修了した後、学んだ知識等を再確認しつつ今一度じっくりと考えてみることも必要と思います。そのヒントを与えてくれる本書は大変意義深いと思います。

この本の特徴は①それぞれのChapterがとても短いので短時間で読めること、②各Chapter毎に復習のための質問があることです。そして何といっても有難いのが、③巻末に参考文献が豊富に挙げられていることです。参考文献等はまだ読めていませんが、MBA時代に読んだものもいくつかあるので、時間を見つけつつ少しづつ読んでいこうと考えています。


2011年3月22日火曜日

Story Tellingと経営戦略

震災から約10日が経過しました。震災によって亡くなられた方はいまだに増え続けており、想像を絶する災害であったことに驚愕します。あらためて、震災による犠牲者の方々や遺族の方々に哀悼の意を申し上げます。

原発をはじめとしてまだまだ予断は許さない状況にありますが、周囲は少しづつ落ち着きを取り戻しつつあるようです。また、先週はアポイントの大半がキャンセルになったので、久しぶりに読書が出来ました。

唐突ですがストーリーとしての競争戦略(東洋経済新報社)という本が売れているようです。

この本を読んだことはないので内容についてはコメントできないのですが、書店でこの本を見かけたとき、ふと、「経営戦略におけるStory Tellingの役割」ということを思い出しました。というのも3年ほど前、Warwick Business School(WBS)で履修したStrategy and Practiceという戦略論の課目の中で、経営戦略におけるStory Tellingの役割について少し触れられていたことを思い出したためです。メイン教材のLesson Noteではわずか3ページほどの分量でしたが、推奨論文として挙げられていた以下の2つの論文を読んでみました。


Barry, D. and Elms, M. (1997) Strategy Retold: Toward a Narrative View of Strategic Discourse, Academy of Management Review, 22, pp. 429–52

Shaw, G.; Brown, R. and Bromiley, P. (1998) Strategic Stories: How 3M is Rewriting Business Planning, Harvard Business Review, May–June, pp. 2–8


どちらも非常に意義深い論文ですが、Barry and Elms(1997)の方はやや難解です。なお、(学術的な面に興味は無く)Storyの具体的メリットや活用法に興味のある方は、Chip & Dan HeathのMade to Stickなどを読まれることをお勧めします。Made to Stickには、Unexpected(意外性)、Credible(信憑性)という概念が紹介されていますが、Barry and Elms(1997)にもほぼ同じ概念として、Strategic Defamilialization,Strategic Credibilityといった概念が紹介されています。根っこの部分ではかなり共通項があると思いました。

ストーリーとしての競争戦略の本の内容とは全く関係ない話になってしまいました。


2011年3月16日水曜日

東北地方太平洋沖地震

先週の金曜日の午後、かつてないほど大きな自然災害が起きました。
この度の地震により被災されました方々に心よりお見舞い申し上げます。

私の家族は幸いなことに全員無事でした。また、被災地に住む数人の知人とも週明けまでには連絡がとれ、知人は全員無事であることが確認できました。詳しい状況までは分かりませんが、まずは、本当に安堵しました。

首都圏は被災地からかなり離れていたとはいえ、今までにない大きな揺れを経験しました。一瞬ではありますが、「死」が頭の中をよぎりました。頻度が少なくなったとは言え、現在も余震が続いています。

首都圏でさえこの有様ですから、東北地方の本震やその後の余震の恐怖は想像を絶するものがあります。そして、地震から津波が発生するまでの時間の短さと津波の想像を絶する破壊力・・・。言葉では表現できません。また、厳しい気象条件や生活必需品等が著しく不足している中で、避難所生活を送られている方々の疲労・不安等を考えると本当に心が痛みます。

今回の地震と津波で、Warwick Business Schoolや海外にいるMBA時代の何人もの同窓生から、安否確認と励ましのメールを頂きました。また、赤十字等を通じて義捐金を送る旨の連絡も相次いでありました。本当に心強い思いがします。

首都圏でも輪番制の計画停電の実施を含め不安な要素は沢山ありますが、被災地の方々のご苦労や不安に比べれば、こうした不便さや不安など比較にならないと思います。私自身、大したことが出来るわけではありませんが、できる限りの支援と協力をしようと考えています。

こういう時期だからこそ、日本人としての誇り・我慢強さ・粘り強さを発揮し、我々が一致協力することが求められていると思います。復旧に向けた一致団結した取り組み・意識変革を通じて、日本がより良い国・力強い国になることを確信しています。

2011年3月6日日曜日

定着するIdeaの作り方とIdeaの効果的な伝え方

今回は記憶に残り、人々の行動を促す優れたIdeaの作り方と自分の考えをどのようにしたら相手に受け入れてもらいやすくなるのか、というテーマを扱った2冊の本をご紹介します。

最初は、Chip&Dan HeathMede to Stick 。定着しやすいIdeaを如何にして作り上げるかという観点から書かれた本です。この本では、SUCCES(S)の頭文字をとって、Ideaを定着させるためには、Short(簡潔性)、Unexpected(意外性)、Concreat(具体性)、Credible(信憑性)、Emotion(感動・感情)、Story(物語)の6つの要素の(複数の)組み合わせが必要であると主張します。

例えば、簡潔性とは単に分かり易いというだけはなく、コアとなるメッセージを明確化し、優先順位をつけることを意味します。また、意外性には相手の注意を喚起し、好奇心を引き出すという効果があります。

SUCCES(S)の条件を見事に満たした例として、1961年のJohn F. Kennedyが行ったMan on the Moonのスピーチが紹介されています。
I believe that this nation should commit itself to achieving the goal, before this decade is out, of landing a man on the Moon and returning him safely to the Earth.'

2冊目の本はChange Management やLeadershipの分野のGuruであるKotter教授の著書。J. Kotter&L. WhiteheadBuy-Inです。こちらは、自分の考えをどうやって相手に受け入れてもらえるかに関する本です。Made to Stickとテーマは似ていますが、Buy-Inは、優れたIdeaを台無しにしようとする4つの脅威(Fear Mongering, Delay, Confusion,  Ridicule(or Character Assassination)への対応を通じて、Ideaを受け入れてもらうために必要なヒントが述べられています。

前半は、とある市のTown Meetingから始まります。市の図書館に対して地元コンピュータ会社から(一定の条件の下)PCの寄付を行ってもよいという提案が持ちかけられます。(予算が限られている)市の図書館にとっては願ってもない提案(Good Idea)です。しかし、如何にGood Ideaであっても、上記4つの脅威のように、Idea実現を阻む障害があります。市営図書館の諮問機関のメンバーの一員である主人公が、様々な障害に対処しながら、この提案を議場で受け入れてもらうまでのStoryが描かれています。後半は、前半のStoryに基づいた具体的な処方箋が述べられます。

重要な点は、①(参加者全員に)敬意をもって対応すること、②予想される反対意見等に対して、事前に準備をしておくこと、③正直・率直・簡潔に回答すること、④反対する人へ意識を向けるのではなく、聴衆(参加者)全体を見渡すことであると指摘しています。

特に印象深かったのは、④に関連して、ともすると敵意や排除の対象として見られる不満分子を議論の場でどのように扱うのかという点です。彼らを説得しようとするのではなく、議論の中でうまく対処することを通じて、議案に関心のなかった(大多数の)層の関心を高め、また、当初から議案に好意的だった人たちのコミットメントを一層高めるという効果が期待できるという点は非常に納得性が高いものでした。

Mede to Stick が定着し易いIdea作りというStaticな点から書かれているのに対し、Buy InはInteractiveな状況の中で、いかにしてIdeaを受け入れてもらうかというDynamicな視点が重視されています。この2冊は相互補完関係(Complementary Relationship)にあるとも言えますので、併せて読んでいただくと理解が深まると思います。

なお、上記2冊の本に関連したWeb Siteも用意されていますので、併せてご紹介します。

Made To Stick  ☛ madetostick. com
Buy-In ☛ kotterinternational.com/buyin