本書では、Rational Choiceに関するいくつかのモデルに対する洞察がなされます。Gilboa教授は、モデルの有用性だけでなく限界にも言及します。そして、こうしたモデルを理論として考えるのではなく、paradigm(a system of thought)として捉えるべきであると主張します。paradigmは我々に、世の中の様々な事象を考察する思考方法を提供してくれます。
第2章ではManagerの仕事の特性として、unrelenting pace, brevity & variety, fragmentation, orientation to action, informal & oral communication, covert control といった概念が説明されます。また、昨今のInternet(e-mail)の発展がManagerの仕事に与える影響にも言及します。
第3章は、Managerの仕事の内容を扱います。本書の理論的中核を成す部分で、Managerの仕事の内容に関する包括的なモデルが提唱されます。一般的に、Managerとは他人を通じて物事を行う人(get things done through other people)ですが、この考えをさらに進めて(人との距離感という観点から)、① Managing through Information ②Managing with People ③ Managing Action Directoryという3つのPlanesが提示されます。 ①が最も間接的、③が最も直接的なManagement Styleと言えるでしょうか。さらに、Managerは組織の内(Inside)と外(Outside)との接点を持っています。これらを組み合わせて(Managerの機能を整理して)、統合的なモデルが提示されます。
第5章の題名はThe Inescapable Conundrums of Managingです。Conundrumsというのは難問or謎といった意味でしょうか。再びマネージャーの仕事や役割の複雑性にスポットライトが当てられます。①Thinking Conundrums、②The Information Conundrums ③People Conundrums、④The Action Conundrums、⑤Overall Conundrumsという視点から考察が加えられます。
H. MintzbergとM. Porterは言わずと知れた経営戦略論のGuruでもありますが、二人の戦略の考え方にはかなりの違いが見られます。Porterは、経済学的な視点から戦略を科学的に捉える代表的な学者ですが、Mintzbergは、戦略を主観的・相対的・全方位的に捉えます。本書でも、Mintzbergは次のようにPorterを痛烈に批判しています。
When Michael Porter wrote in The Ecconomist that " I favor a set of analytic techniques to develop strategy"(1987), he was dead wrong: nobody ever developed a strategy through a technique( p.162).
These paradoxes and predicaments, labyrinths and riddles, are built into managerial work — they are managing — and there they shall remain. They can be alleviated but never eliminated, reconciled but never resolved(p. 192).
本書の中には、MBAでも学習するFinanceやEconomicsの概念を築いた人々が沢山出てきます。Risk(分散)とReturn(平均)の変数を用いてPortfolio理論の基礎を築いたH. Markowitz、CAPM理論を考え出したW. Sharp, J. Lintner, J. Mossin, MM理論で知られるF. Modligliani & M. Miller, Black Sholes Modelで有名なF. Black, M. Sholes, R. Merton, Arbitrage Modelの考案者でRWJの著者の一人でもあるS. Ross, Efficient Marketの代表格でK. Frenchとともに(Three) Factor Modelで知られるF. Farma, Jensen's alphaやCorporate Governance論の領域でも有名なM. Jensen, CAPM批判のR. Rollなどなど。また、行動経済学のD. Kahneman & A.Tversky, R. Thalerといった面々も登場します。さらには、K. Arrow, M. Friedman, P. Samuelson, F. Hayekといった近代の経済学の基礎を築いた大御所も名を連ねます。
The overwhelming majority of research in finance in those days was no longer concerned with the question of whether markets were efficient. One just assumed that they were, and proceeded from there.
Financial markets are not natural phenomena. They are man-made-made by men and women whose business is gazing into an uncertain, risky future. The act of managing risk in such an environment alters that environment, creating a never-stable feedback loop.
These people(young quants) knew how to work statistical models, but they lacked the market experience needed to make informed judgments. Meanwhile, those with the experience, wisdom, and authority to make informed judgments-the bosses-didn't understand the statistical models.
The leap from observing that it is hard to predict stock price movements to concluding that those prices must therefore be right was, he declared at a conference in 1984, "one of the most remarkable errors in the history of economic thought.
Overconfidence doesn't get you to a theory of asset prices. It gets you to a theory of why asset prices overshoot their fundamental values-which in turn can coexist with a loose version of the efficient market hypothesis.
・・・ and for now we have to make do with the muddle of neoclassical and behavioral and experimental and asymmetric-information economics and finance that we have.
本日はJay. B. Barney(共著)のWhat I didin't Learn in Business Schoolです。Barney教授と言えば、RBV(Resource Based View)という経営戦略理論で大変有名な方です。まずは、Barney教授が教鞭をとるOhio State University(Fisher College of Business)のExecutive Educationからのビデオクリップです。
ちなみに、この本のTitleは"What I didn't learn in Buisness School"であり、"Business School didn't teach・・・"ではありません。すなわち、Business Schoolで学んだこと(学ばなかったこと)については、すべて自己責任であるということです。もっと言えば、Business Schoolでは少なくとも(そのヒントは)提供しているものの、学んだ側がそれを十分生かしきれていないということかもしれません。本の序文には、以下のような戦略立案に関する珠玉の記述があります。
Strategy making is part science, part art, part intuition, part politics, part analysis, part change management, and part just hard work.
物語の主人公は、Business Schoolで沢山行うケース分析(Cracking the Case)と現実の仕事(コンサルティング)とは全く違うことを自覚していきます。現場では、様々な人の思惑、社内の権力構造、企業風土といった要素が複雑に絡み合っています。また、会社の事業や製品等のビジネスの仕組みに関しては、社内の人間の方が圧倒的に知識もありまた経験も豊富です。そうした中で、コンサルタントの果たす役割とは、(健全な懐疑心を持って)様々なバイアスに左右されることなく、客観的に戦略の評価を行うことであると理解します。また、現実のコンサルティングは、会社の将来の姿を形作る支援をするやりがいのある仕事であると感じます。Storyは(かなり脚色はあるものの)とても生き生きと描かれています。この辺りは、Barney教授も、もう一人の著者(Clifford女史)も、実際にコンサルティング経験が豊富なためでしょうか。
この本を読んだことはないので内容についてはコメントできないのですが、書店でこの本を見かけたとき、ふと、「経営戦略におけるStory Tellingの役割」ということを思い出しました。というのも3年ほど前、Warwick Business School(WBS)で履修したStrategy and Practiceという戦略論の課目の中で、経営戦略におけるStory Tellingの役割について少し触れられていたことを思い出したためです。メイン教材のLesson Noteではわずか3ページほどの分量でしたが、推奨論文として挙げられていた以下の2つの論文を読んでみました。
Barry, D. and Elms, M. (1997) Strategy Retold: Toward a Narrative View of Strategic Discourse, Academy of Management Review, 22, pp. 429–52
Shaw, G.; Brown, R. and Bromiley, P. (1998) Strategic Stories: How 3M is Rewriting Business Planning, Harvard Business Review, May–June, pp. 2–8
どちらも非常に意義深い論文ですが、Barry and Elms(1997)の方はやや難解です。なお、(学術的な面に興味は無く)Storyの具体的メリットや活用法に興味のある方は、Chip & Dan HeathのMade to Stickなどを読まれることをお勧めします。Made to Stickには、Unexpected(意外性)、Credible(信憑性)という概念が紹介されていますが、Barry and Elms(1997)にもほぼ同じ概念として、Strategic Defamilialization,Strategic Credibilityといった概念が紹介されています。根っこの部分ではかなり共通項があると思いました。
最初は、Chip&Dan HeathのMede to Stick 。定着しやすいIdeaを如何にして作り上げるかという観点から書かれた本です。この本では、SUCCES(S)の頭文字をとって、Ideaを定着させるためには、Short(簡潔性)、Unexpected(意外性)、Concreat(具体性)、Credible(信憑性)、Emotion(感動・感情)、Story(物語)の6つの要素の(複数の)組み合わせが必要であると主張します。
SUCCES(S)の条件を見事に満たした例として、1961年のJohn F. Kennedyが行ったMan on the Moonのスピーチが紹介されています。
' I believe that this nation should commit itself to achieving the goal, before this decade is out, of landing a man on the Moon and returning him safely to the Earth.'
2冊目の本はChange Management やLeadershipの分野のGuruであるKotter教授の著書。J. Kotter&L. WhiteheadのBuy-Inです。こちらは、自分の考えをどうやって相手に受け入れてもらえるかに関する本です。Made to Stickとテーマは似ていますが、Buy-Inは、優れたIdeaを台無しにしようとする4つの脅威(Fear Mongering, Delay, Confusion, Ridicule(or Character Assassination)への対応を通じて、Ideaを受け入れてもらうために必要なヒントが述べられています。
さて、今回はMcKinsey Quarterlyで特集されているDan Ariely氏のインタビュー動画(Irrationality in the Workplace)です。内容については動画をご覧頂くとして、まずはDan Ariely氏の簡単な紹介から。
Dan Ariely氏は、Duke大学の教授でBehavioral Economistの第一人者です。2008年にはPlacebo現象の研究(高価なPlaceboの方が安価なPlaceboより効き目があるように感じること)によって、イグノーベル賞(医学賞)を受賞するなど、研究の切り口がとてもユニークです。Ariely氏は10代の頃、事故によって全身の70%に火傷を負うという重傷を負い、加えて、火傷で入院中に輸血によって感染症を患うなど、青春時代(10代・20代の頃)に長期にわたって非常に辛い経験をしています。こうした経験を通じて、人間の行動や人との関わりについて注意深く観察したり、深く考えるようになったようです。
Ariely氏の著書であるPredictably Irrational(邦題:予想どおりに不合理)やThe Upside of Irrationality(邦題:不合理だからすべてがうまくいく)には、人間(の不合理)性に関する様々な興味深い実験が数多く記載されています。また、我々が陥りがちな罠についてもその解決策や心構えなども記述されています。加えて、ビジネスの現場では(科学の領域と異なり)、何が経営に役立つか(役立たないのか)といった点について、系統的な実験が驚くほど少ないと言います。そして、小規模で良いので、企業は(職場で)もっと沢山の実験をすべきであると主張します。
今回も前回に続き、Harvard Business Review(HBR)の中から記事を紹介します。ちなみに、Onlineでは最新版(2011年1月~2月号)が読めるのですが、紙ベースのものはまだ届いておらず、手許の最新版は昨年の12月号でです。
12月号はBrandingの特集です。個人的には、Marketing活動そのものにはあまり接点がありませんが、経営戦略の中核的な要素であるため、関心を持っている分野です。
今回の特集を一言でいえば、BrandingにおけるSocial Mediaの重要性です。特に、Branding in The Degital AgeというMcKinseyの方が書いた記事はなかなか興味深いものでした。ここでは、伝統的なAIDMAに代表されるような消費者の選択肢が(購入に至るまでに)徐々に絞り込まれていくFunnel のようなモデルではなく、消費者とBrandの継続的な関わり合いを重視したConsumer Dicision Journey(CDJ)というモデルが提唱されています。特に、消費者の購入によって終結するFunnel Modelでは、購入後における消費者とBrandとの結びつきという視点が欠落していること、購入後におけるSocial Mediaの役割が非常に大きいことが指摘されています。
いわゆる口コミ(word of mouth)は昔から重要だったわけですが、現代においてこの機能を持つSocial Mediaの重要性を認識することは、Marketing担当者にとって不可欠であると指摘しています。さらに、各種のメディア間におけるマーケティング支出の配分についてもCDJに対応して見直す必要があると指摘しています。
なお、McKinsey Quarterlyの2010年12月号には、同じ方の書いた"Beyond paid media: Marketing’s new vocabulary"という記事があります。こちらは、Media( 5種類)に応じた、Marketing予算の配分に関する提案がされています。なお、Audioでも記事の概要を聴くことができます。
今回は、Harvard Business Review(HBR)のJanuary–Februaryの中から戦略論の大御所 Michael E. Porter(Mark R. Kramerとの共著)のArticleであるThe Big Idea: Creating Shared Valueについてとりあげたいと思います。
しかし、『個々の企業がShared Valueを追求すれば、社会全体の利益も実現されるはず』という楽観的な考え方には少し疑問を感じます。Shared Valueを追求するために、企業間(あるいは企業と政府)でAllianceやCollaborationが必要になるケースは今後益々増加するでしょう。しかし、基本的にはSurvival of The Fittestを前提とした競争状況にあることは変わりはありません。社会利益の犠牲の下、短期的な利益に走る企業(いわゆるFree Rider)が登場する可能性もあります。そしてその数が増えてくれば、Shared Valueを追求するIncentiveが薄れる可能性があります。こうした経済人の(悪い?)側面が新しい価値観を持った社会起業家によって完全に払拭される可能性は薄いと思われます。