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2011年4月24日日曜日

Managing(H. Mintzberg)

今回は、Henly MintzbergのManagingです。昨年の初めに買って途中まで読んで積読になっていた本書ですが、(先頃翻訳版も出たこともあり)気分を一新して通読してみました。

一言で言えば、MintzbergのSeminalな著書The Nature of Managerial Work(1973)の現代版です。この本は今ではなかなか手に入り難いようなので、エッセンスを知るにはこちらの論文を読んでも良いと思います。

H. Mintzberg, The Manager's Job: Folklore and Fact, Harvard Business Review, July-August 1975(1990 Reprint)

Mintzberg教授の視点と洞察力の秀逸さは今さら申し上げるまでもありませんが、それと同時にすごいと思うのは、同じテーマを40年間研究できる情熱と粘り強さです。何事にも飽きっぽい私にとっては驚異的なことです。

まずは、今回ご紹介するManagingの紹介動画がありますのでご覧ください。



本書は6章から構成されています。第1章は序章で、1973年の著書をベースに、Managerの仕事は今も昔もあまり変わっていないと主張します。そして、Managingの3つの側面として、有名なTriangle(Art, Science, Craft)が紹介されます。
Thus, ・・・ managing can be seen to take place within a triangle when art, craft, and the use of science meet(p.10).
本書では、Managerial Workを2つの側面から考察します。2つの側面とは、①仕事の特性(Characteristics)と②仕事の内容(Content)です。第2章では仕事の特性が、第3章では仕事の内容が扱われます。


第2章ではManagerの仕事の特性として、unrelenting pace, brevity & variety, fragmentation, orientation to action, informal & oral communication, covert control といった概念が説明されます。また、昨今のInternet(e-mail)の発展がManagerの仕事に与える影響にも言及します。


第3章は、Managerの仕事の内容を扱います。本書の理論的中核を成す部分で、Managerの仕事の内容に関する包括的なモデルが提唱されます。一般的に、Managerとは他人を通じて物事を行う人(get things done through other people)ですが、この考えをさらに進めて(人との距離感という観点から)、① Managing through Information ②Managing with People ③ Managing Action Directoryという3つのPlanesが提示されます。 ①が最も間接的、③が最も直接的なManagement Styleと言えるでしょうか。さらに、Managerは組織の内(Inside)と外(Outside)との接点を持っています。これらを組み合わせて(Managerの機能を整理して)、統合的なモデルが提示されます。


第4章は29人のManagerの仕事を実際に観察した中で、Managerの仕事を5つのContextsで整理していきます。5つのContextは、①Exrternal, ②Organization, ③Job, ④Temporal, ⑤Personです。ややDescriptiveな記述のため読み進めるのがやや大変ですが、最後に有名なTriangle(Art, Science, Craft)に関連付けられるので、すっきりと整理することが出来ます。


第5章の題名はThe Inescapable Conundrums of Managingです。Conundrumsというのは難問or謎といった意味でしょうか。再びマネージャーの仕事や役割の複雑性にスポットライトが当てられます。①Thinking Conundrums、②The Information Conundrums ③People Conundrums、④The Action Conundrums、⑤Overall Conundrumsという視点から考察が加えられます。

H. MintzbergとM. Porterは言わずと知れた経営戦略論のGuruでもありますが、二人の戦略の考え方にはかなりの違いが見られます。Porterは、経済学的な視点から戦略を科学的に捉える代表的な学者ですが、Mintzbergは、戦略を主観的・相対的・全方位的に捉えます。本書でも、Mintzbergは次のようにPorterを痛烈に批判しています。

When Michael Porter wrote in The Ecconomist that " I favor a set of analytic techniques to develop strategy"(1987), he was dead wrong: nobody ever developed a strategy through a technique( p.162). 

結局、Managerの抱える難問(上記の6つ)については、これらを完全に排除したり完全に解消したりすることはできず、うまく折り合いをつけたり、部分的に解決していくということになります。
These paradoxes and predicaments, labyrinths and riddles, are built into managerial work — they are managing — and there they shall remain. They can be alleviated but never eliminated, reconciled but never resolved(p. 192).

6章のタイトルはManaging Effectivelyです。といっても、効果的なManagementを行う具体的な方法が示されるわけではありません。むしろその対極で、効果的なManagementのPanaceaなどは存在しないことが示されます。まず、(成功しているManagerを含め)Managerには皆欠点があり、ただ、その欠点が致命的になってないだけだと指摘します。そして、Managementの有効性を考えるための7つの概念(Energetic, Reflective, Collaborative, Analytic, Worldly, Proactive, Integtative)を用いたFrameworkが提示されます。次に、効果的なManagerの選定、評価、育成法が展開されます。特に育成については、(従来のBusiness Schoolの)教室ではManagerを育成できないという考えから、Manager育成のためのProgrammeであるInternational Master’s in Practicing Management の内容の紹介が中心となります。

最後にAppndixでは、29人の中から8人(8日間)を選んで、Managerの仕事の観察結果と考察が紹介されています。

一読しただけなので、内容の理解がまだまだ十分ではありませんので、折を見て読み直そうと思います。

なお、こちらのサイトはとても参考になりそうです。


2011年4月16日土曜日

The Myth of the Rational Market

本日は、The Myth of the Rational Market(邦題:合理的市場という神話/東洋経済新報社)を紹介します。

本書は、Finance理論の歴史的発展過程と金融市場の特性について、時系列で追っていくという画期的な本です。著者はジャーナリストなので記述は平易ですが、かといって、平易さを追求して学術的な面が疎かになっているわけではありません。その意味では傑出した本だと思います。

本書の中には、MBAでも学習するFinanceやEconomicsの概念を築いた人々が沢山出てきます。Risk(分散)とReturn(平均)の変数を用いてPortfolio理論の基礎を築いたH. Markowitz、CAPM理論を考え出したW. Sharp, J. Lintner, J. Mossin, MM理論で知られるF. Modligliani & M. Miller, Black Sholes Modelで有名なF. Black, M. Sholes, R. Merton, Arbitrage Modelの考案者でRWJの著者の一人でもあるS. Ross, Efficient Marketの代表格でK. Frenchとともに(Three) Factor Modelで知られるF. Farma,  Jensen's alphaやCorporate Governance論の領域でも有名なM. Jensen, CAPM批判のR. Rollなどなど。また、行動経済学のD. Kahneman & A.Tversky, R. Thalerといった面々も登場します。さらには、K. Arrow, M. Friedman, P. Samuelson, F. Hayekといった近代の経済学の基礎を築いた大御所も名を連ねます。

本書の内容は非常に濃いのでとても一言では表現できませんが、いくつか印象に残った部分を紹介いたします。

Finance理論は、市場が効率的かどうかについては関心は無く、効率的な市場を出発点として形成されていたという指摘です。
The overwhelming majority of research in finance in those days was no longer concerned with the question of whether markets were efficient. One just assumed that they were, and proceeded from there.

その理由の一つは、リスクを自然現象と捉えることで、可能性のある結果の分布図が(一定の範囲に)限定され、リスクが数学的に扱いやすくなるからです。
Risk was seen as a natural phenomenon, a scatter graph of potential outcomes that could be kept within bounds and manipulated mathematically.


しかし金融市場は自然現象ではなく人間が作り出したものです。そして、リスクを管理しようとする試みが、市場環境を変えてしまい、永遠に不安定なフィードバック・ループを生み出してしまいます。

Financial markets are not natural phenomena. They are man-made-made by men and women whose business is gazing into an uncertain, risky future. The act of managing risk in such an environment alters that environment, creating a never-stable feedback loop.

クォンツなどのエキスパートは、統計モデルは熟知しているものの市場での経験が浅く、一方、経験や知識・権限を持つ(金融業界の)お偉方たちは、統計モデルを理解していなかったと指摘しています。
These people(young quants) knew how to work statistical models, but they lacked the market experience needed to make informed judgments. Meanwhile, those with the experience, wisdom, and authority to make informed judgments-the bosses-didn't understand the statistical models.

Shillerは、「株価変動の予測が難しい」ということをもって「株価は正しい(はず)」と結論付けたことは論理の飛躍であり、「経済的思想の歴史の中で最も顕著な誤りのひとつである」と指摘しています。

The leap from observing that it is hard to predict stock price movements to concluding that those prices must therefore be right was, he declared at a conference in 1984, "one of the most remarkable errors in the history of economic thought.

最近の行動ファイナンスなどの研究により、「投資家の自信過剰」という要因が株価等の資産価格に影響を及ぼすことが実証されつつあります。しかしこの考え(自信過剰)は、資産価格理論ではありません。むしろ、「資産価格が本来の価格をなぜ上回るのか」を説明する考えであり、効率的市場仮説の概念と両立する考え方です。
Overconfidence doesn't get you to a theory of asset prices. It gets you to a theory of why asset prices overshoot their fundamental values-which in turn can coexist with a loose version of the efficient market hypothesis.

結局のところ、どの理論によっても市場の動きを統一的に説明することはできません。今ある考え方(新古典派,行動学派,情報の非対称性学派など)を組み合わせて理解していくしかないということになります。
・・・ and for now we have to make do with the muddle of neoclassical and behavioral and experimental and asymmetric-information economics and finance that we have.

そして重要なことは、市場参加者が高潔さという規範に従って行動しないと、市場は崩壊するということでしょう。
If market participants failed to follow a particular non-market-determined norm- integrity -markets wouldn't work. The market couldn't govern itself.

なお(本論から少しそれますが)、Finance理論の発展と同じくらい面白いのが、FinanceとEconomicsの理論や学者のせめぎ合い、そしてその中で発展した米国のBusiness Schoolに関する記述です。Harvard, Chicago, Whorton, MIT, Yaleはもとより、Rochester, Carnegie MellonといったBuisness Schoolに関する記述はとても興味深いものがありました。

優秀な研究者の下には(その人を慕って)優秀な人材が集まるということで、いわゆるApprentice System(徒弟制度)が重要だということが理解できます。 Warwickも著名な教授(研究者)を招聘して、どんどん知名度を上げて欲しいものです。最近、ランキング等がちょっと冴えないので・・・。


2011年4月2日土曜日

Game Theoryの入門書

Game Theoryは経済学(特にApplied Microeconomics)をはじめ工学、社会学、政治学、生物学といった分野に応用されています。

Game Theoryに関する入門書は沢山出版されていますが、少し突っ込んだ学習を行おうとする段になると、食い足りない感のある本も多いと感じています。ということで、自分が読んだ本の中からお勧めできる本格派の入門書を何冊かご紹介したいと思います。

(1) ゲーム理論入門/武藤滋夫/日経文庫 
(2) The Art of Strategy A. K. DexitB. J. Nalebuff 
(3) ゲーム理論・入門-人間社会の理解のために/岡田 章/有斐閣アルマ 
(4) 経営の経済学 /丸山 雅祥/有斐閣  


(1)はコンパクトな入門書ですが、非協力ゲームのみならず、協力ゲームや情報不完備ゲーム、学習と進化のゲームなど、Game Theoyの領域を一通り押さえています。紙幅の関係で説明が飛んでいる部分も所々ありますが、この「行間」を自分で埋めていくことにより、力がつくように思います。新書ですが今回取り上げた(入門書の)中では、レベル的には最も高い部類に属すると思います。手軽に読める本ではありませんが、本格的にGame Theoryを学ぶための導入として、是非お勧めしたい本です。

(2)は米国のMBA課程でも長年にわたって用いられている”Thinking Strategically(邦題:戦略思考とは何か)”という本の改訂版に当たる本です。翻訳版も昨年出ています。内容としては、Game Theoryを中心とした戦略全般に関する本です。ボリュームはそこそこありますが、身近な事例が数多く取り上げられており、楽しみながら読み進めることができます。理論的な厳密性よりも、Game Theoryがビジネスの場にどのように応用されるのか、という点に興味を持っている方には最適と思います。

(3)は上級書として定評のある「ゲーム理論(有斐閣)」の著者による入門書です。分かり易い記述ながらも理論的に高い水準を維持していますし、扱う範囲もかなり広くなっています。また、数学の利用も最小限に抑えてありますので、安心して読むことが出来ます。(1)と同じタイプの本ですが、(1)よりも解説が詳しくなっています。

(4)は以前別のBlogの記事で紹介したBusiness Economicsに関する入門書ですが、この本のGame Theory部分も大変分かり易い記述になっています。Economicsに全く触れたことが無く、かつ、数式嫌いの方には厳しいかもしれませんが、Game Theoryを含めBusiness Economicsのベースをきっちり身につけたい方には最適な本と思います(最近、改訂版が出たようです。)

今回ご紹介した本のうち、(2)はBusiness Personに特にお勧めの本、(1)と(3)はGame Theoryを理論的にしっかり学びたい方の導入本、(4)はGame Theoryを含めたBusiness Economicsを学びたい方の導入本としてお勧めです。